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もう死んでしまうだろう
主が手塩にかけて育てていた赤く小さな魚に変化があったのは一昨日のことだ。
朝起きて、餌をやろうと鉢に近づいたところ何やら体に白い斑点が出来ている。
首を傾げながらも餌をまけば、口をぱくぱく動かして水面に浮かんだそれらを食んだので
まあ、しばらく様子を見ようと思い至った。その日は、そのまま放っておいた。
しかし次の日の朝、例の斑点が体の半分を覆うくらいに増えていることに気付いて
いよいよ何かがおかしいぞと思い直し、動物の生き死に詳しいらしい侍従に診てもらったところ
魚によくある皮膚の病気で、この状態ではもう長くはないだろうということだった。
侍従の言葉を固唾を飲んで聞いていた他の者たちも皆一様にため息をつき
戦で城を離れている主のことを思った。ただひたすら、申し訳ない思いだった。
赤い金魚が涼しげに泳ぐ鉢は、主が自ら選んだものだ。
縁の、波打つような形をしているところをいたく気に入ったようで
政務の間など時間があれば金魚と、その鉢を愛でていた。
その目はまるで幼い子供のもののようで、思わず笑みがこぼれたほどだ。
以前、その金魚について尋ねたことがある。
名前はつけないのかと。
すると主は、名は考えてあるのだが、秘密だとのたまった。
ひどく赤くて、見ていて飽きないからという理由で付けたらしいのだが
結局最後まで主の口からその名を聞くことはなかった。
長い尾っぽをゆらゆらとはためかせながら水の中をゆく様は、まるで炎のようだった。
そうして3日としないうちにやはり金魚は事果てた。
斑点で覆われてしまった白い体をぷかりと水面に浮かべているところを、丁寧に鉢から出してやり
何名かの者と庭に穴を掘り、埋めてやった。
折しも、戦に出ていた忍びのひとりから、やがて主が城に戻るだろうという報せを受けた。
勝ち戦だった。主は、敵首を幾つか挙げたようで、いたく機嫌が良いらしい。
その中には、かの真田源二郎幸村の名もあった。
実際に会い見えたことはないが、戦場の中心でひときわ紅くゆらめく炎のような男だと聞いたことがある。
その様を思い浮かべたとき、ふと、既視感のようなものを覚えたのだが、なかなかついに思い出せなかった。
special thanks!
はだし/きぬ様(http://nobara.chu.jp/sss/)