なにかを望まれたこども(三成と豊臣と家康)
豊臣に参入して間もない子供は、悩ましいことにいまだ愛と言うものを知らなかった。
それを初めて与えてやったのが竹中で、慣れない環境に緊張していたのか、寝小便をしてしまった子供の夜着をはぎ、下肢を丁寧に清めた後、涙を流して謝罪する子供の細い肩をやわらかく抱きしめた。そうして腕の中の子供が泣き疲れて眠るまで、何度も背中をさすり続けた。
次にそれを与えてやったのは太閤で、文武に明るくめきめきと頭角を現した彼を自ら呼びとめ、その銀の頭をゆるりと撫ぜた。よう励め、佐吉。平素は威厳溢れる主君の、己を見る目が柔わらく細められたことに子供は驚き、固まってしまったということである。
最後にそれを与えてやったのが徳川である。
彼はまこと美しく成長した子供を崇め、称え、それらをの全てを言の葉に乗せた。さらにそれだけでは飽き足らず、彼の愛欲を体現し、子供の身体に深く深く刻みつけたのだ。その快楽に子供は即座に陥落した。徳川なしではいられなくなり、身も心も全て徳川に寄せるようになっていった。
けれどもまもなくして徳川は、子供を捨てて豊臣を出た。
子供は悉く怒り狂い、頭皮を掻きむしり、天に向かって吠え、全身全霊で徳川を呪った。そうして悩ましいことに、子供は新たに憎しみと言うものを知ったのである。
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それは傲慢で、ひどくつまらない行為だとおもう(三成と家康)
武器を捨ててからというものの、この男の掌は日毎ぶあつくなるばかりである。
両のこぶしのみで戦場を駆けるなど狂気の沙汰だと周囲は困惑を隠せずにいたが、皮膚がやぶれ、腱が傷つき、骨が肉より露わになったとしても、当の本人はけろりとしていた。戦がひとつ終わるたび、恐らくしばらくは使い物にならぬのであろう血濡れた掌に、白布を器用に口に挟んでは巻き付けている。その表情には少しの曇りも見られない。この男はいつもそうだ。自ら進んでありとあらゆる痛みを受け止めに行っては、ひとり傷ついている。
さらに性質が悪いことに、男は自分以外の誰かが傷つくことを決して許さないのである。この強欲め。なればお前が受けた傷を一体誰が癒すと言うのか。
すでに赤く血の滲む白布の上から、男の手の甲に口づけた。
タイトル
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