ばかな子は愛してくれない


ドアノブに手をかけると
いとも簡単に扉が開いたのでぎくりとした。
恐る恐る中の様子を窺えば、玄関から真直ぐに伸びる廊下と
その突き当たりに位置する彼女の部屋から煌々と明かりが付いているのが分かる。
恐らくテレビも付けっぱなしになっているのであろう。
時折、わあ、という歓声のようなものが聞こえて来ては遠ざかっていった。
思わずため息がこぼれた。これでは、合鍵を作った意味がないではないか。

お邪魔しますと心の中でつぶやいて、するりと中へ侵入する。
内側から鍵をかけた後、自分が脱いだ靴と、ついでに彼女の靴も揃えて並べ置く。
脱いだ靴はつま先を玄関の方に向けて揃えておけと言うのに、一向に直らないのである。

擦りガラスがはめ込まれた中扉は開け放たれている。
ほぼ正方形の間取りをした部屋には必要最低限のものしか置いていない。
向かって左側にテレビと本棚と衣装箪笥、右側にはパイプベッドがあり
その上は複数の抱き枕ですでに占領されてしまっている。
そうして中央には寒がりな彼女が今年も早々に導入したこたつが鎮座しており
ひいきの銘柄のビール缶ふたつと柿のたねの空袋が天板に置かれたままになっていた。
それらを近くに転がっていた空のビニール袋に突っ込みながら
こたつ布団から顔だけのぞかせて眠っている彼女を盗み見る。
アルコールを摂取したためか、それともこたつの熱によるものなのか
白い頬がうっすらと赤みを帯びている。
薄く開いた唇から規則正しく紡がれる寝息のあまりの穏やかさに、額に手を当て天井を仰いだ。
重症である。それでも彼女を可愛らしいと思う自分自身が。



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