いつか同化するために
主にある日、角が生えた。
額の両端から2本。小指の先ほどの大きさで、象牙のように白く、触るとやはり固かった。
その奇っ怪な出来事に初めこそ首を捻っていた主だったが
日々の生活にさして支障がないことが分かると、その後は特に気に病むこともなく
ある程度まで伸びて来たら、削るということを繰り返している。まるで爪か何かのようだ。
こうまでして、俺を鬼にしたいのだな。主がぽつりと呟いた。
小刀の刃の側面を親指の腹で支え、角の薄皮を剥がすようにゆっくりと滑らせてゆく。
主の角の手入れをするのは自分の役目である。今は耳だけ傾けて、続きを待っている。
戦場でもどこでも鬼だ鬼だと罵られ、畏れられ、言霊がついに現実になったのだ。
角は、刃物に対して存外柔らかい。指に力を入れすぎると、ぐぐ、と奥まで入り込んでしまう。
だがな、佐助。俺は今ひどく昂揚しているのだ。
声は凪いでいる。風が通り抜けて、主の長い後ろ髪を揺らした。少し、肌寒かった。
人から離れ、本物の鬼にもなれば、あの気高き竜にいつか手も届くであろう。
※タイトル※
はだし様(http://nobara.chu.jp/sss/index.html)