腐れよ(三成)
何かにつけて触れたがるこの男の体温はそれなりに高い。
夏には鬱陶しく感じるが、冬場はそうでもないといった具合である。
なので、この秋枯れの時分になると男の機嫌はすこぶる良くなる。
温めてやろうと、尻尾を振ってこちらにやって来る。
己が、殊に寒さに弱いことを知っているためである。
ある日、太陽の権化とも言われる男が冬好きらしいことを耳にした。
その理由を聞いて、己が呆れたのは言うまでもない。
* * *
夢を飾る(家康)
今目前で庭の草木をぼんやりと愛でる美しい男と、泰平の世とを天秤にかけた。
最近では、己がいたずらに彼に触れても抵抗はせぬ。
話す時は、きちんとこちらを向いて会話するようになった。
冗談を言えば、口の両端をわずかに上げるようにして笑うことを知った。
彼が、きちんと、己を好いてくれているらしいことを知った。嬉しかった。
己の存在に気づいて、庭の草木から目を離し、ゆるりとこちらを振り返った美しい男と
泰平の世とを天秤にかけた。家康、と呼ぶ声と、泰平の世とを天秤にかけた。
迷わず後者を選んで掬いあげた己を彼は許してくれるだろうか。
タイトル
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