しりたくないってば(長曾我部と真田と家康と三成)

突然勢いよく席を立った石田は、手洗いに行くとぽつりつぶやくと
足早に店の奥へと進んでいった。お気をつけて、と石田を送り出した真田の意識は
今しがた運ばれてきた串揚げの盛り合わせにすでに奪われており、気づかなかったのであろう。
色素の薄い銀の髪からわずかにのぞく耳たぶが、赤く色づいていたことを。
あんまり食べ過ぎるなよ、と隣の真田に一声かけてから正面でちびちび清酒を呷る家康を見る。
お前、石田に悪さしただろ。何のことだ。しらばっくれるな。
割りばしの先を、ぴ、と徳川に向けると、彼は行儀が悪いぞ元親と笑った。
本当に別に何もしていない。ただ、脚の腿を撫でてみただけだ。
そう、悪びれもなく言ってのける。お行儀が悪いのは一体どちらだ。



* * *


優雅に酔えない(長曾我部と三成と家康)

珍しくつぶれた石田を背中におぶったところで、各々に別れを告げた。
石田と己の自宅は徒歩で行き交うことが出来るほど近くにあるため
飲み会などの帰りは自ずと一緒になることが多く、最近ではすっかり保護者気分である。
繁華街のまばゆいネオンも喧騒も、幸い彼の眠りを妨げるほどではないらしく
規則ただしく寝息を立てる彼のぬくい体温が背中越しに伝わってきた。
ふと、後ろから視線を感じて振り返る。
歩道の真ん中に立ち、こちらをじい、と見つめている徳川を見とめた途端
何やら背中にぞわりとしたものが駆け上がり思わず身震いをする。
そのまま視線を前に戻し、背中の石田をおぶり直した。
いえやす、と小さく呟いた彼を、ひどく恨めしく感じた。



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