許容させて

戦果の報告を行った後、ふと目を離した隙に彼が消えた。
豊臣の見事な勝ち戦で、意気揚々と帰参の準備を進める周囲の兵に聞いて回れば
ある者が陣の後方にある林に向かってふらふらと歩いて行ったのを見たと言う。
ありがとうと声を掛け、首を傾げながらもそちらの方に足を向けた。
日が、西の方に傾きかけている。暗くなってからでは厄介だと自然小走りになっていった。


「こんな処にいたのか、三成。」

うっそうと生い茂った木々を掻き分け進んでいったところで彼を見つけた。
細い背中を幹に預けて座り、静かに目を閉じている。
平素より青白く感じる顔色に、よもや死んでいるのではあるまいなと
急ぎ駆けより口元に手を当てると細い息がかかったので、ほう、と息を付いた。
いちいち彼は心臓に悪い。豊臣のためなら自らを少しも顧みようとせぬ。
周囲が口うるさく言わなければ食事も睡眠も取らないため
顔がこけ、痩せ細って行く姿を見るのが痛々しいくらいであった。

「せっかくの美人が台無しだ。」

小さくひとりごち、汗で張り付いた彼の長い前髪を梳いて流してやれば
普段は隠れている額があらわになって、その白さに大きく喉が鳴る。
気づけば、彼のそこに唇を寄せていた。それと同時に彼の身体がぴくりと動く。
目覚めた彼に何と言い訳をするべきか、そんなことを頭の隅でぼんやりと考えながら
名残惜しく唇を離した。



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