傷つけ方がいっしょだ(刑部と家康)

廊下で徳川と鉢合わせた。
立ち話の最中、しきりに左頬を気にしている風だったので何事かと問えば
猫に引っかかれてしまったのだと苦笑いをしてみせる。
そこには赤い糸のような傷が複数走っており、徳川はいかつい指でそれ撫でながら
まだまだ慣れてもらえぬのだと一人ごちた。そこで何となく合点がいった。
恐らくその猫めは銀の毛色をしているに相違ない。


* * *


染めたいおまえ(家康)

刑部と別れた後、水屋に向った。
中にいた女中に濡らしたてぬぐいを用意してもらい、自室へと戻る。
熱を持った傷にそれをあてがうと、冷やりとして心地よかった。
己はどうも人より体温が高いようで、触れるもの触れるもの
たいてい冷たく感じるので面白い。
ことに彼の肌は見た目通りの低く涼やかな体温を
こちらのてのひらにまで伝えて来るため
その心地よさに思わず離れがたくなってしまうのだが
過度の触れ合いに慣れぬのか、彼は決まって声を荒げる。
けれども離せと言われれば不思議とそうはしたくなくなるもので
その結果が頬に付けられた傷であるのだけれど
これが世に言う自業自得というものなので致し方ない。
ようは早くに、慣れさせればいいだけのことである。



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