それは愚かなことではないのです(三成と刑部)

刑部、お前はどう思う。
唐突すぎる問いかけに視線だけちらりと隣に投げる。
すると彼は、す、と腕を持ち上げて中庭の方を指差した。
己のめしいた目には眩しすぎる、初夏の昼下がりである。
指差した先には徳川がおり、今ではたんと青い葉を茂らせた古い桜の幹に背を預け
うつらうつらと船を漕いでいる。その表情は平素に比べていささか幼い。
彼に尋ねる。どう、とは。・・・私は、あの男がよく分からぬ。
そうのたまって、目を細める。分からない、ともう一度口に出し、確かめている。
その目に己は見覚えがある。まばゆいものを見るときのそれである。
ああ、そうゆうことなのだな、と呟き顎の先を指でなぞれば
何かおかしなことでも言ったかと、彼は不思議そうな顔をする。
あの目に己は見覚えがある。己が彼を見るときのそれである。


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莫迦の申すこと(家康)

元より自分が正しいと思ったことは口に出して言う性格であったため
幼いころはよくよく周囲に苦言を呈されたものだった。
いくら正しいことだとしても、慎まなければならない時があるということは
もう少し後になってから知った。それが大人になるということだと教えられた。
けれども彼に対してだけは、いくら意識をしてみても口から勝手に言葉が出ていってしまうため
そのうちとうとう匙を投げてしまった。彼を美しいと思うことは、致し方ないことなのである。




タイトル
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