夏にいなくなるひと

ちゃりちゃりと音を鳴らしているのは隣を歩く主である。
子供ゆえか、それとも、元来の性格から来るものなのかは定かではないが
目を離せばすぐにどこかへと消えてしまう小さな主の奇行のせいで
忍隊総出の捜索劇が繰り広げられたこと数度。
やっとの思いで連れ帰った主を昌幸様のところへお返しに上がった折
いつも済まないと、眉根を下げて詫びてきた彼がこうつぶやいた。
この子には、鈴でも付けねばならぬなあ。

そうしてそれから数日が経ち、再び忍び屋敷を訪れた主が首から提げていたのがそれだった。
聞けば、父上に戴いたのだとやけに嬉しそうに話し、わざわざ首から外してこちらに見せてくれた。
敬愛する父親からの贈り物が、さぞかし嬉しかったのであろう。
主の細く白い指は、六つの銭を壊れもののように扱っていた。
まさかそれが、自分を縛りつけるものだとは微塵も思っていないようだった。

隣を行く主の歩みは澱みない。
彼のわがままに付き合って、城下まで団子を買いに出かけた帰りである。
右手に団子の入った包みを提げ、左手に主の手を取って歩いている。
彼の歩みに合わせて首に提げたものが揺れ、規則正しく音を出す。
ずうっと鳴っていても、なぜだか耳に障らないのが不思議なのだが
もしかするとそれも含めて昌幸様は見繕ってきたものかもしれない。

あの六文銭のほんとうの意味を、自分はとうに知っていた。
あれは、彼をこの世に留めておくためのものである。
あの世へ渡る船代にすることなどは決して許されぬ。

あれは、己を縛る鎖でもある。
この音が鳴り続ける限り、己は死ぬまで主を探し続けることになるのであろう。
鈴は、主と同時に、己にも付けられたものだった。

昌幸様も、ひとが悪いよ、ほんと。

その言葉に素早く反応した主をやんわりと宥めながら
年若い忍びは盛大に途方に暮れた。





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