狸と猿の化かし合い
意識がふわりと上昇した。
同時に、眠気とは別の倦怠感がのたりと身体に圧し掛かってくるのを感じながら重いまぶたを開けば
いつの間にか衣服を身にまとった忍びが、こちらに背を向け手甲をはめているところであった。
絹ずれの音に交じって、時折かちりと金属のぶつかる音がする。
もう行くのか、と、喉まで音が出かかったがやめた。そんなことを言っても意味がない。
殊にこの忍びはひどくせっかちで、朝を共に迎えた試しもなければ
夜のうち、挨拶ひとつなく忽然と消えてしまうことの方が多いのだから。
彼の態度に不満がある訳ではない。むしろ互いに、それでいいと思っている。
彼は、行為の痕跡を何一つ残さない。
身体は彼に触れられた前後で全くどこも変わってはいないし
時折きつく噛まれることはあっても、痕が残るようなことは決してしない。
思うに、戦場でも寝屋でも、彼が「忍び」でない瞬間などないのであろう。
優秀すぎるにも程がある。今度、彼の主にあの忍びを譲れと直談判でもしてみようか。
そんなことを、もやのかかった頭でぼんやりと考えている。
そのうち、抗い様のない眠気が襲って来たので、再び目を閉じた。
訪れる闇。隣の気配を窺うと、忍びは支度を終えたようで、今はやけに静かである。
「竜の旦那」
自分を呼ぶ声に、気づかぬふりをした。
というより、応えることなど出来なかった。
右のまぶたに降りてきた柔い衝撃に打ちのめされる。
渇いたくちびる。肌を合わせていたときよりも遥かに甘い、声。
何故だか無性に腹が立った。
枕元の六爪で、この忍びの喉を今すぐ掻き切ってしまいたい。
* * *
雪と墨のあやめたんのお誕生日に恐れ多くもプレゼントさせていただいたものです!
あやめたんのさすだての雰囲気が大好きなので、そんな雰囲気が出せるようちょう頑張った覚えがあります。
え もちろん玉砕ですが;/////;あの雰囲気はあやめたんにしか出せないもん;////////;
あやめたん愛してるお!!!!!