呼吸がにごる

確かにこちらも言いすぎたとは思う。
売り言葉に買い言葉。気づけば彼はどんどん顔を歪めて、ついには口を閉ざしてしまった。
よどんだ空気が足元に纏わりつく。これではとても、動けやしない。
そうしてしばらく互いにだんまりを決め込んでいたのだが
彼は突然立ち上がりそのまま障子を開けて外に出ていってしまった。
開け放たれたところから、遠くの山が落日でまどろむのが見える。
庭に降り立った彼の背中が今にも夜に溶け込もうとしていたので
やはりこれではいけないと思い、声をかけようとするのだが
ただただ細い息がひゅうと漏れて来るだけで、どうしても音にならぬ。
長い後ろ髪を揺らして彼がこちらに振り反るのを今か今かと待っている自分の
なんと臆病なことか。独眼竜が聞いて呆れる。


※タイトル※
はだし様(http://nobara.chu.jp/sss/index.html