いつしかを抱いて
寝てる間に飛んでいっちまったみたいで。
包帯でぐるぐるに巻かれたところを彼が力なく摩っている。
そこには以前確かに彼の左の小指があって、白くて、細くて、
少し力を入れれば簡単に折れてしまいそうだと思ったことが、ふと脳裏をよぎった。
相手は男なのに、どうしてそういう思考に行き着いたのか、今思えば不思議でもある。
彼の言うとおり、あれに本当に羽が生えて今もどこかを悠々と飛んでいるのならば、
それはたいそう美しい鳥に見えることだろう。
けれでもここからいちばん自由になりたがっている彼は、
可哀そうなことにまだ自分の隣に居て、
あの蒼い空といっしょになれるのを今か今かと心待ちにしているのだ。
ときおりひどくうつろな目で天を仰いでいる彼を見ていると、
心がざわざわとして妙に落ち付かなかった。気分が悪い。
どうして俺を選んだのか。一度彼にそう尋ねたことがある。
すると彼はしばらく目と閉じて考えるそぶりをしたかと思えば、
こちらに向き直り意地悪く笑った。
あんたを困らせたかったから。
何だ、それ。怒りとかなしみとがいっしょくたに湧きあがってきて、
もう何も言えなかった。
※「些末なおもいで(埜田 杳 著)」のダブルパロ
(肉体に羽が生えて四散する奇病が存在する世界の話。罹ったのは伊達)
※※タイトル提供は、はだし様(http://nobara.chu.jp/sss/index.html)