ほんとうに素直じゃない

正直言うと、もうこれ以上は待っていられなかった。
彼のいる教室に駆けこめばすでに席にはおらず、ちょうど今帰宅したところだと聞かされた。
けれどもどうしても諦めきれずそのまま生徒玄関まで全力疾走すると
下足箱のところでようやく彼を見つけることが出来た。息が上がったまま、彼の名を呼ぶ。
出てきた音は、掠れていた。自分でも、明らかに焦れているのが分かる。
振り向いた彼はなぜか泣き出しそうな顔していて、視線を足元に逸らせてしまう。
反動で、手提げ部分に赤いリボンのかけられた紙袋が小さく揺れた。
今朝偶然彼を見かけたときにも、同じものを持っていた。
これで期待しない方がおかしいではないか。
政宗殿。何だよ。これは、某の分ですよね?
袋を提げた方の手を取り、ぎゅ、と力を込める。彼の掌はいつも冷たい。
だから、温めてやりたいと思う。その役目は自分だけでいい。
彼はきつく握られた手と、こちらを交互に見やった。
その目にはまだ、迷いがあった。まばたきをする度に不安げに揺れている。
政宗殿、もう一度聞きます。これは、某の分ですよね。
彼は何も言わなかった。代わりに、こくりと頷いた。
全身の力がゆるゆると抜けていく。
良かったと力なくその場に座り込んだ自分を見て彼は笑った。
お前、何泣きそうな顔してんだよ。その言葉、そっくりそのまま政宗殿にお返しします。


Happy Valentine!!!