ねむりひめ
こんなところで眠っていたのか。
そう尋ねれば、彼はすうっとまぶたを開けた。
中から現れたこげ茶の瞳と、目が合う。
真っ赤なもみじの落葉に埋もれて、顔以外ではところどころ肌と
忍び装束が見え隠れしているだけである。
どこでも眠れることを得手としているこの忍びの考えることが時折理解できない。
昼寝か。いいや。じゃあ、何なのだ。
一体いつからここにいたというのか。
横たわる地面は冷たくないのだろうか。
そのようなことが次々と頭に浮かんでは消えていく。
当の忍びはそこから動こうともせず、むしろ惰性で唇を動かしては音を出す。
安心するのさ、とても。包まれているみたいで。
何に、という言葉を口にする前に、ぶわりと強い横風が吹き
気づけば目前から忍びは消え去っていた。逃げられた。
巻き上げられたもみじの葉がはらはらと紅い大地に戻っていくのをみやって
誰に聞かせるでもなく、はあ、と大きくため息をつく。
そこにはもう、誰のぬくもりも残ってはいなかった。