あの骨(学園/佐助と慶次)
ざ、ざ、と筆を滑らす音が聞こえる。
それは全く澱みない。だから、とても気持ちがいい。
まだ?とキャンバスの向こう側に声をかけてみると、
少し間をあけて、まだ、と鸚鵡返しで返ってくる。
何の変哲もない、木片とパイプで出来た椅子に
ただ腰かけているのもそろそろ飽きてきた。
両の腕を高く上げて思い切り背伸びをしたところで、壁掛けの時計に目をやると
彼が絵を描き始めてからかれこれ1時間以上経過している。
それは腰も痛むはずだ。
今目の前にいるこの男は、なぜか自分ばかりをモデルにしたがる。
他にも見目の良い友人がいるだろうに、決まって自分に声をかけてきた。
はじめは、何か企んでいるんじゃないだろうかと勘ぐったりもしたが
こちらを真直ぐに見つめるとび色の瞳が、普段の彼からは想像もつかないくらい深くて
吸い込まれそうで、気恥ずかしくなるくらい真摯なものだったので
いつしかそんな考えはきれいさっぱり消え去ってしまった。
「佐助は、骨がいいよね。」
「骨?」
「うん、骨。というか、骨格。すごくいい。」
キャンバスの向こう側で、馬の尻尾のような明るい色の髪が揺れる。
顔色ひとつかえずそんなことを言ってのける前田慶次という男は、なんというか。
それはもうとてもとても恥ずかしい男だと思う。
special thanks!
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