冬の攻防
自分の握り拳を、これほど憎んだことはない。
廊下を足早に歩きながら伊達はちいさく舌打ちをした。はやく教室に戻りたい。
けれども走れば風が、頬や、首筋を冷たく撫でていくのでそれでも出来ない。ああ、耐えられない。
唯一の救いは、腕の中に収まっている飲みものが温かいということだった。
ココアと、コーヒーと、コーンスープ。
スチール缶同士が足を動かす度ぶつかり合っては、ごろごろと鈍い音を奏でている。
ちらりと窓の外を見やると、灰色の雲が空の低いところを絨毯のように覆い尽くしていた。
本格的な冬が、もうすぐそこまで来ている。
今日の飲みものの買い出し係りは、ジャンケンで政宗に決まった。
拳を突き出した政宗に対して、元親と家康は掌を見せたので、いわゆる独り負けの状態である。
ここ最近負けなしだった政宗は自分の拳見て苦虫を潰したような顔をしたが
二人に急かされてとっとと教室から追い出されてしまった。
じぶじぶ廊下を歩きだしたところで、後ろから、俺、コーンスープな!とか
わしはココアで頼むぞ!とか捲し立てられて、政宗の眉間にはますます皺が寄った。
暖房の熱風やら、人の熱気やらで暖められた教室がすでに恋しい。
ぶるりと背筋に悪寒が走り、カーディガンでも羽織って来れば良かったと思ったが、後の祭りだった。
そうして、やっとの思いで教室へ戻ったにも関わらず
元親と家康はすでにそれぞれ昼食を食べ始めていたので
待てはできねーのかお前らはと、缶を乱暴に机の上に並べていった。