けもの、けだものを喰らう

目の前に座して頭を下げるこの男は、普段と戦場での雰囲気がまるで違う。
一つの身体(うつわ)中に二人の者が住まわって
入れ替わり立ち替わり表に現れているような心地さえするのだが
それらはごくまれに一匹のけものにとって変わる。
目が、気高き野獣のそれになる。

顔を上げた彼の眼にばちりと囚われて、全身の筋が震えた。
この男に、このような目をさせるのは他でもない自分なのだと
彼をけものに戻すことができるのは自分だけなのだと
思えば思うほど内から歓喜が湧きあがってくるのを止められない。
その感覚は、戦場で彼と仕合っている最中に感じるもののとよく似ていた。
ひどく興奮する。

伊達は上座から音も無く立ち上がると、真田の襟のあたりをぐいと引き上げ
彼の冷たい唇に自分のそれを押しあてた。中をこじ開け、舌を侵入させれば
早急すぎると咎めるような声が聞こえて来たが
唇をはなして、けものに礼節も糞もないだろうと一蹴してやれば
それは小さくため息をつき、今度は伊達の喉元にあたりにきつく犬歯を立てた。