あたたかいひと

冬になると、真田幸村の需要が高まる。
性格云々の暑苦しさもさることながら、彼の体温が人のそれより多分に高いということを
佐助や慶次だけでなくクラスメイトまでが知ることになってからは、特に重宝された。
自分がここにいることで、教室内の気温に変化がみられるかどうかは眉つばものだったが
それでも周りが頑なにそう信じている以上、幸村に発言権などない。
最近では、休み時間、幸村が他のクラスに出かけようともすれば軽くブーイングが起こるほどで
自分は、暖房器具か何かかとため息を付きたい気持ちにもなったものの
皆が喜ぶ顔を見るとそれは喉の辺りでぐ、と止まってしまい、未だに音になることはなかった。

しかしながら、その弊害が思わぬところに現れる。
休み時間に教室から出られないということは、当然、政宗にも会いに行けなくなることを意味していた。
どうやら彼にはそれが気に障ったようで、今、並んで帰る道すがらもずっとだんまりを決め込んでいる。
横目で表情をちらりと窺うものの、眼帯で覆われた右側からは何も読み取れなかった。
ただ、寒さのせいで血の気が引き、普段より一層青白くなっている肌が見えるのみである。
寒そうな色だ、と思った瞬間、ひらめいた。

学生服のズボンのポケットに仕舞われた彼の右手を、半ば無理やりひっぱり出してきて
自分の左手とゆるく絡める。すると黙っていた彼がこちらを向いてぎりりと睨みつけた。
何すんだ。寒そうだったので。寒くねえ。でも、冷たい。
そう言って幸村は、繋いだままの手を顔の高さにまで上げて、政宗の掌に頬ずりをした。
目を見開き、顔を真っ赤に染め上げた愛しい人を見て、幸村は声を上げて笑い
明日は必ず会いに行きますると、彼を真直ぐ見据えてそうのたまった。
政宗は、顔を隠す様にうつむいたまま、首肯した。


後日、幸村が政宗のクラスを訪れた際
自分に関する例の噂を聞きつけた元親や家康を始めとする9組のメンバーに
時間いっぱい教室から出させてもらえなかったということはまた別の話である。