守るべきひと

空から声が降ってきた。
うっかりすると聞き逃してしまいそうなそれは
よくよく耳を澄ませばすすり泣く子供の声だったので
佐助は隣にどしりと生えそびえた柿の木を見上げた。
黄色く色づき始めた葉の間から、わずかに細い足首が覗いている

見つけた。

一人であんなに高いところまで登ったというのか。
たかだか隠れ鬼ごときにあれほどまでに無茶を働かせる意味が分からない。
佐助は急に怒りがふつふつと湧いてきて、手頃な高さにあった枝に手を掛けると
乱暴に片方の足で幹を蹴り上げ一気に体を持ち上げた。
そのままの勢いで枝づたいにどんどん上へと登っていく。
自分でも、猿のようだと思った。

突然隣に現れた自分の忍びに、幼い主はかなり驚いたようだった。
口はぽかんと開いたまま、丸く大きな目を幾度もまたたかせる。
涙も思わず引っ込んでいたのだが、忍びが主の名前を呼ぶと
今度は堰を切ったように溢れだしてきた。そうして、佐助、佐助と両手を伸ばす。
彼もそれに応じるように、両手を取り、そのまま主の軽い体を抱え上げた。
細い腕が、佐助の首にこれでもかとからみつく。
わんわん泣きわめく主の後頭部を何度か撫でてやりながら
佐助はどうしてこんなところまで一人で登ってきたりしたのかと努めて穏やかに主に尋ねた。
どんなに腹が立っていたとしても、結局のところ、自分は主の泣き顔に弱いのだ。
すると腕の中の主はほんの少し体を離して、懐の中からまだ青い柿を取り出して見せた。

佐助に、これを、食わせてやりたかったのだ。

ずい、と差しだされたそれを佐助が受け取ると
主はまた佐助の首筋に纏わりついてわんわん泣きだしてしまったのだが
うっかり自分まで泣いてしまいそうになっていることに気付いて
らしくないなあなどと思いながら、佐助は彼の小さく温かい背中を擦り続けた。