海原の月

目前の彼はすっかり項垂れてしまっている。
これが犬か何かならば、耳は力なく垂れ下り、尻尾も地面についたまま
丸まってしまっているのであろう。その様を思い浮かべて政宗はふと口元を緩めた。
するとその気配を察しったのか、幸村がむくりと顔を上げ、恨めしげにこちらを見やった。
その目はわずかにいつもと違う色を湛えている。
というよりむしろ、「色」に侵されたと言った方が正しいのかもしれないが。

彼を「欲しい」と言ったはいいものの、いざ事を為そうとしたとき政宗は大いにうろたえた。
知識がない訳では決してない。ただ、異性との経験も無ければ初めての相手が男というのはもはや未知数すぎて
幸村がいつもと違う口付けをしながら、自分を緩くベットに横たえようとしたとき
思わず両腕で彼の胸を突っ張って、制止をかけてしまったのだ。
幸村は、欲しいと言ったのは政宗殿でござろうと、胸にあった政宗の手をやんわり払いのけただけでなく
両の手首を掴んでそのまま政宗の顔の横に繋ぎとめた。
万事休す、とか、袋の鼠とか言う類の言葉が政宗の脳裏をよぎる。
そうして、幸村が自分の首筋をきつく吸い上げたところでいよいよ政宗の頭は真っ白になり
持てる力を総動員して抵抗し、止めろ止めろと声を荒げた。そこでやっと幸村も動きを止めたのだった。
幸村は、分かったとぼそりと呟くと馬乗りになっていた体を政宗から離したので
政宗も恐る恐る上半身だけ起き上がる。心臓が胸を叩く音がうるさいことこの上ない。
あまりのことに息苦しさすら感じたのだが、今は幸村の機嫌を取ることの方が先決だ。

相変わらず熱に侵され剣呑な目をした幸村に、ごめん、と一言呟くと
腕をぐいと引かれてあっという間に彼に抱きすくめられてしまった。
自分の肩に額を乗せた彼は自分の中の何かと葛藤しているのか、むう、とか、ぐう、とか
ぶつぶつ口にしていたのだが、そんな彼を見ているうちに
何だかひどく罪悪感を感じてきてしまい、政宗はおずおずと彼の背中に両手をまわした。
そして、何度も謝罪の言葉述べる自分に、幸村は肩越しにうんうんと首肯し
抱きしめる腕にさらに力を込めて来る。正直窒息してしまいそうだったが
これくらいは甘んじて受けてやらねばなるまい。

そうしてしばらくしたところで、彼が
キスだけ、もう一度させて下さらぬかと心底申し訳なさげな表情で嘆願してきたので
政宗は破顔して、それくらいなお安い御用だと、自分から彼の唇を食んでやった。

 

 

 

Happy Birthday!DATE!!
(遅くなって申し訳ありませんでした・・・!)