焦がれる(さなだて)

腰から腹の辺りにかけてを彼の指がつ、となぞる。
傷が塞がったばかりの新しい傷である。
手当てがしてあれば余計な気を遣わせるかもしれないと思い
敢えて包帯などを取って参上したのだが
この薄闇の中でも彼を騙すことは出来なかったらしい。

触れられた箇所から、ぞわりと粟立つような快感が全身を駆けていくのを
息を詰めて見送った。本当に、鼻のよく利く獣だ。
しばらく傷を行ったり来たりしていたがそれにも飽きたのか
彼は指を動かすのを止めて、ぽつりとつぶやいた。

妬けますな。何がだ。この傷をつけた者です。
そう言って彼はかがみ込み、今度は傷に口付けた。
相手は名も知らぬただの足軽だった。多勢に無勢で他の敵に感けていたところを
一太刀浴びてしまっただけのことで、すぐさま返り討ちにしてやったのだが。
それを聞いて、彼は声を上げて笑った。
竜を手に掛けるなど恐れ多い。
しゃべりながら、時折、傷に舌が這う。
お前がそれを言うのか、という言葉は呑み込んだ。
それこそ、今更だと思ったからだ。

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あたたかい記憶(さなだて)

肌寒さを感じてふと目が覚めると、彼はいつの間にやら自分の懐に潜り込んでいた。
自分の胸の辺りに彼の顔があり、すうすうと寝息を立てる様は
戦場での猛々しい表情など見る影もないほど穏やかだ。
真田は、掛布団をきっちりと彼の肩まで引き上げたところで
それでもなお寒いといけないと思い、彼を頭から抱きしめた。
柔い黒髪を撫でながら、政宗殿は、存外小さいものなのだなと思った。

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彼にはあの青い空と自由がよく似あう(さなだて)

目の前に首桶が一つ置かれている。
先ほど従者が持参したそれには先日自分が討ち取った彼の首が入っていて
すでに丁寧に清められた後である。存外、小さいものだなと思った。
不思議とそれ以外の感情は何も浮かんで来ず
真田は座したまま、ただぼんやりと桶を見つめていた。

どうやらかなり長い間そうしていたらしく
いい加減、首を奥州へ返上しなければならないと従者が部屋に訪れたので
相分かったと二つ返事でそれを手渡した。
文机に向き直り、残った政務を片付けるべく筆を取りながら
ふと、竜にあの器ではいささか狭くないだろうかと思い至った。

 

 

 

 

とっても僭越ですが、shuriさん@Spinnwebe.に捧げます(返品可)
いつも素敵なもうそうをありがとうございます…!!