※伊達が死後のお話。苦手な方はご注意ください。
ひかりのおと
首から提げた紐がぶちんと千切れて
丸い銭が地面に転がり落ちるのをなすすべなく見届けた次の日の朝
独眼竜政宗が討死したとの報を受けた。
彼の首は敵方にすでに渡っており首実検も済まされたという。
近く、奥州に還ることになるだろうと顔色一つ変えずに忍びは告げた。
そして忍びは一通り報告を終えると、じい、とこちらを見据えてきた。
俺の顔に何か付いているのかと尋ねると、別に何もと呟いて
それじゃあまた仕事に行ってくるねと音も無くその場を後にする。
風が、ふわりと部屋の中を通り抜けた。それはわずかに雨の匂いを含んでいた。
文机に座して、開け放たれた障子の遠く向こうにある山を見やる。
なだらかな稜線に這うようにして灰色の雲が低く覆っている。
ときどき、光をともなってごろごろと呻いた。
真田が書状をしたため終えるころにはすっかり辺りは薄暗くなり
来るな、と思うとほぼ同時にやはり雨が降り出した。
全身に纏わりつくようなじめつく気配から逃れるように
真田は筆を硯の上に投げ出して、ごろりと畳に仰向けになった。
目を閉じるとまぶたの裏に所々で折れ曲がった光の線が幾重にも見える。
最後に彼と仕合ったのはいつだったか。
戦場を駆ける姿はまるで雷神の如くそしてひたすらに強かった。
息をすることすら許されない。
彼以外のものをひとたび目に入れたその瞬間肉が断たれ血潮が飛び散る。
けれども不思議と胸が躍った。真田にとって彼はそのようなものだった。
それ以上でも、それ以下でもない。
今ではかなり近くで光と音が暴れている。
そのまま体を転がして横向けになり、目をきつくつむる。
ついでに、両の耳まで手で覆ってやった。
なぜだか彼の気配がすぐそこにあるように感じて、居た堪れない気持ちになったのだ。
勝手に居なくなってしまった癖に。まだ俺を捕らえようとするのか。
真田は胸の内で彼をさんざんに罵った後、唇だけ動かしてその名を呼んだ。