深い眠り
かの者は眠り続けている。
脈も呼吸もあるのだが上掛けから覗く白い顔はまるで死人そのもので
実は何度となく彼の左胸あたりに耳を寄せ、拍動を確かめたことがある。
そしてとくとくという音が規則正しく鼓膜を伝ってくるたびに深く安堵するのだ。
幼い頃より、物音や人の気配などにひどく敏感であったため
熟睡出来たためしがないと彼は笑って話していたが
その話は実は方便なのではないかと思ったほど
幸村の隣で彼は深い深い眠りに付く。
不思議だと首を傾げる一方で、これを愛しいと思わない訳がない。
そして今宵もその安らかな眠りを守らんと
幸村は彼を抱きしめたまま、一人静かに瞼を下ろした。
表現15のお題 08:深い眠り
配布元→両忘様(http://ryoubou.org/)