※ご注意※
真田の目が飛び出ちゃっています。
苦手な方はお戻りください。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半身

右の目が飛び出る夢を見た。
地面に落ちたそれはそのままくるくる転がって行ってしまい真田は必死で追いかけた。
あと少しで手が届くか届かないかというところになると
たちまち右目は転がる速度を上げるのでまた離されてしまうのだ。
しばらくそんなことを繰り返していたのだが、ふと前方に人らしき陰が現れて
幸いにも目玉はかの人爪先にこつんと当たり動きを止めた。
しめたと思った真田は、かの人にそれは某のものだから返して欲しいとのたまった。
するとかの人は足元に転がった目玉を指先で拾い上げてにんまり笑った。
それまで足元ばかりに目をやっていた真田はそこで初めてかの人の顔を見た。
弦月の前立に、腰の六爪。独眼竜伊達政宗。
けれどもいつも右の目を覆っている鍔の眼帯はそこにはなく
あるのは瞼の下にぽっかりと空いた空洞だけだった。

伊達は真田の目玉を掌の上で二、三度転がしたかと思うと
訝しげな顔でなりゆきを見守っていた真田に言った。
この右目を俺に寄越せ。ご冗談を。冗談なんかじゃねえ、いいから寄越せよ。
軽い口調とは裏腹に兜から除く左目は少しも笑っていなかったので
思わず真田が伊達から目玉を奪い返そうと腕を伸ばしたが
それより速く伊達が自分の右目めがけて真田のそれをぎゅ、と捻じ込んだ。

 

 

目が覚めると、ひどく汗をかいていた。
隣で眠っている伊達を起こさないように上半身だけそっと起き上がり
深いため息をつく。心臓はまだ早鐘のように胸を打ち続けている。
伊達は最近、真田と二人でいるときには眼帯を外すようになった。
昔はあれだけ右目を見せることを躊躇していたのにも関わらず
何か心境の変化でもあったのだろうかと思っていた矢先のことだった。
彼が望むものは出来る限り何でも叶えてやりたいと思う。
彼が欲しいと言うのなら、自分の右目を差し出すことも厭わないくらいに。
いっそのことこの身の全てを彼に捧げることが出来たらとすら思うのだが
それでは彼を抱きしめることが出来ないではないかということに気がついて
真田は静かに寝息を立てる伊達に、申し訳ないと呟いた。

 

 

 

表現15のお題 07:半身
配布元→両忘様(http://ryoubou.org/)