小話詰め合わせ/その3

 

三途の河の話(さなだ)

ここへは以前に来られたことがございますか?
いや、あり申しませぬ。
だとしたらあなたは戻られた方が良い。まだ間に合う。
けれども先程からどうにも向こうが気になるのだ。
誰かがあちらから某を呼んでいるような気がして。
いえいえあちらに行っても何もありやしませんよ。
あるのは闇と永遠だけです。
某の他に誰かこちらに来られたか?
それはもう毎日のようにいらっしゃいますよ。
・・・そう言えば少し前に面白い方が来られましたね。
面白い方とは?
はい、その方は引き返すことができない部類の方だったのですが
やけに清々しいお顔をされておりまして。
ここいらに来られる方というのはだいたいが困惑しているか
あちらの世に何かしらの未練があって悲愴感が漂っているものなので
何となく気になってその方に理由を尋ねてみたんです。
そうしたら、この者にだけには殺されても良いと
常々思っていた方に首を取られたので何の悔いもないとおっしゃるんです。
それは殊勝な考えをお持ちの方だな。
そうでしょう?弦月の前立てに隻眼という出で立ちで
纏う雰囲気もどこか高貴な感じが致しました故
どこぞの身分の高いお武家様だったのかもしれませんね。