りんごの話1.5

幸村が体調を崩していると聞き、学校帰りに彼の家に寄った。
様態によっては会えないかもしれないし、迷惑かも分からなかったが
気付けば足は彼の家のある方角へと向いてしまっていた。
決して淋しいとか、そういう訳ではない。
ただ、弱っている彼を見てみたかっただけだ。

玄関のチャイムを押すときに、ほんの少しだけ深呼吸した。
がらになく緊張している自分に驚く。
しばらくして、はいはいお待ちくださいと明るい声が扉の向こうからして
政宗はスーパーの袋をぎゅ、と握り締めた。
反動で、買ってきたりんご2つが、袋の中でごろりと転がるのが分かった。
扉を開けて現れた女性は、幸村と同じ鮮やかな栗色の髪をしていて
目に至っては幸村のそれそのままだった。
大きな瞳でこちらをじっと見つめられたので、慌てて自分の素性を名乗ると
いつも幸から話を聞いていますと彼女はにっこり笑い、中へ入るように促した。
間違いなく、幸村は母親似だ。

玄関から入ってすぐ左の扉が幸村の自室で
お茶を入れてくるから中で待っていてという言葉を残し、幸村の母親は廊下を進んで行った。
勝手に入ってもいいものだろうかとしばらく悩んだが、このまま廊下に突っ立ている訳にもいかず
政宗はドアノブを捻った。扉越しに中を覗くと幸村の寝息が聞こえてきて、
妙にほっとした心地になった。そして彼を起こさないように静かに部屋に滑り込んだ。

一日中ベットで横になっていたせいか
幸村の髪はいつもより弾力が無く、所々寝ぐせが出来てしまっている。
どんな間抜け面で眠っているのかと思って顔を覗きこめば
眠っている時の方が普段より余程精かんな表情をしていて政宗はどきりとした。
返り討ちに遭ったような気持ちになり、思わず視線を寝顔から逸らす。
すると、枕もとに白いタオルが落ちていることに気付いた。
恐らく幸村の額の上にあったものが落ちてしまったのだろう。
すっかりぬるくなってしまっていたそれを手に取って
額に被せようとしたところで、幸村が低く唸った。

うっすら目を開けた彼はしばらく焦点定がまらないといった様子でぼんやり政宗を見つめていたが
その存在を確かめるように、まさむねどの?と唇だけ動かして言った。
タオルを額に戻しながら、具合はどうかと尋ねれば、まあまあでござると返って来て、
某は馬鹿ではなかったようだと緩く笑うものだから、夏風邪は馬鹿でも引くんだぜと意地悪く言ってやった。

 

 

 >リクエスト#1

 「りんごの話」の政宗サイド
拍手から返信不要でリクエストしていただきましたが、見て下さっているかな・・・?
本当にありがとうございました(^v^)!!