赤鬼の話2.5

額に瞼に唇に。落とされる口づけはとても優しい。
政宗殿と呼ぶ声もひどく柔らかで
痛みを伴うくらいに両手首を拘束されていることなど忘れてしまいそうになる。
余裕があるのかそうでないのか。
矛盾を伴う幸村の行為が、政宗はいつも不思議だった。

内側から鍵をかけた状態の保健室で、幸村と二度致した。
授業中だという罪悪感がさらに二人を駆り立たせ
事果てた後、しばらく政宗は足腰が立たないくらいだった。
気遣う幸村を半ば追い返すように教室に戻らせた後
保健医が一日不在なのをいいことにそのままベッドに潜り込んだ政宗は
自分の手首が真っ赤になっていることに気付いてぎょっとした。

指の痕までくっきりと残るくらい痣が出来てしまっている。
こんなに力を加えなくとも、逃げやしないというのに。
意識した途端鈍く痛み出した両手首の痣をぼんやり見つめながら
政宗は情事の最中の幸村を思い出していた。

彼の目は、不思議な色をしている。

普段は表情豊かにころころと変化するそれは
政宗を見つめる時、殊に色を増す。
欲に溺れたというのは、あのような目のことを言うのだろうか。
剣呑とも取れるような深く鋭い視線に当てられるだけで
政宗の体は熱く反応する。

求められている。
幸村と体を重ねるようになって、初めてそう実感出来た。
今まで誰一人として自分を求めることはなかったし
自分からも求めようなどとは思わなかった。
万が一求めて、手を伸ばしたとしても
その手を振り払われでもしたらあんまりではないか。

独特の倦怠感と、それに伴う眠気が襲って来る。
政宗は、4時間目を知らせるチャイムの音を聞きながら
幸村が残していった赤い痕に頬擦りし、そのまま意識を手放した。