猫の話4
猫は、いまだ懐かない。
なかば無理やり昼食を一緒に取るようになってひと月程経った頃だった。
昼休みを知らせるチャイムが鳴るのとほぼ同時に政宗は立ち上がって教室を出ようとするが
それとほぼ同時に元親が政宗の前の席にどかりと居座る。
本来その席である女生徒と何か密約でも交わしているのではないかと思うくらい
元親の行動にはぬかりなく、なお且つスムーズだ。
そしてそのまま政宗の机の上に彼が事前に購買で買ってきたと思われる
総菜パンやら、おにぎりやら、お茶の類を並べていく。
仕上げに元親は上目づかいで立ったままの政宗を見つめ
お前、俺に一人淋しく弁当食えって言うつもりじゃねえだろうな?
と人の悪い笑みを浮かべるのだ。
ここまでされてはさすがに逃げられないではないか。
政宗は、元親に聞こえるように大袈裟に溜息をつき、大人しく自分の席に収まった。
しぶしぶ小十郎特製の弁当を取りだし、いただきますと呟き、眼を閉じる。
そこでなぜか元親がおあがり下さいと応えたのに、政宗は思わず破顔した。
猫の話5
根気比べには負けたことがない。
元親は隣で黙々と食事を続ける政宗をちらりと窺い
そのまま視線を手元のソーセージパンに戻した。
話したくないのか、それとも食事中には会話をしない性質なのか定かではないが
さすがの元親もこれでは間がもたいないし、正直つまらない。
少なくとも、元親自身は、食事は楽しくがモットーである。
何か会話のネタはないかと元親が思案していると、ふと隣から声が上がった。
お前、いっつも購買だよなと、政宗が元親のソーセージパンを見つめて言う。
親元を離れ、高校の近所に下宿をしている元親は、現在一人暮らし中であり
自炊は気分が乗る時にする程度だから弁当なども作ったことがなかった。
因って、足しげく購買に通い詰める毎日を送っている。
ちなみにこのソーセージパンは、贔屓にしてもらっている購買のおばちゃん一押しの
新商品だったりするのだが。
その旨を政宗に伝えながら、
元親は口元が緩んでしまいそういになるのを堪えらずにはいられなかった。
政宗が、自分に興味を抱いた。
それだけで十分な進歩であり、このひと月の行いは無駄ではなかったということである。
彼はまだまだ懐きそうにはない。
けれど、根気比べなら自信がある。
試しに明日は、自分で弁当でも作って来ようかと、元親は思った。