目もらいの話
帰宅後、右の瞼がやけに重く感じると思って鏡を見てみたら、目もらいが出来ていた。
赤く色づいた二重瞼は、腫れた分だけ垂れ下がり、眼球を圧迫するので痛痒い。
このまま掻き毟ってしまったら少しはすっきりするかもしれないが
後から取り返しがつかないことになるのが目に見えていたので、止めておいた。
それでも寝ている間に無意識に掻いてしまうといけないからと、母親が白い眼帯を取り出して来たので付けてみると
やはり普段の半分しか視界が効かないせいか、何をするのにも動きが鈍るし、どことなくバランスも取りにくい。
ただただ、不便だなと思った。そして、愛しい隻眼の彼のことを思い出した。
彼の目は不思議な色をしている。
初めて彼に会ったときも、その切れ長の深い色をした目に惹かれたことを良く覚えている。
片方は伸ばされた髪で隠れて見ることは敵わなかったが、まさか隻眼だとは思ってもみなかった。
無論幸村にとっては、政宗が隻眼だろうが何だろうが、政宗だということに変わりはないのだけれど。
だがしかし、と幸村は思う。
彼の目がもしも二つとも見えていたならば、きっとその目で多くの者を呑み込んでしまうのではないかと。
自分はたった一つ見たたけで、これ程までに彼を欲してしまったのだから。
無責任で傲慢で残酷な考え方かもしれない。
けれどこれ以上、誰も彼を見つけないで欲しいと願わずにはいられなかった。
ふと鈍い痛みを感じて白い眼帯の上を指でなぞると、布越しであるにも関わらず、そこはひどく熱かった。